▼ 2014/05/14(水) 第307回4月19日放送
■入選句
題『鳴く』山寺に昼鳴く虫と別れゆく 翔空
眠れぬ夜 犬の遠吠え救急車 有子
鳥鳴かぬ まだ夜なのか雨なのか 朝子
鳴くことも出来ぬ托卵 時鳥 喜明
毎日が今の世の中雷鳴で 清香
ゴミの日は鴉鳴き声場所選び 栄
題『自由吟』
我ながら母に似てるとふと思う 佐知
朝ドラの同じ場面で泣く夫婦 英樹
皿割ってわたし悔いなど残さない かほる
■川柳ヒストリー
燗壜に用なく春を母子きり 松本華子昭和15年(1940年)の川柳をご紹介します。
昭和15年は日中戦争が3年経過して講和への道の見通しは立たず、
昭和14年9月、ドイツがポーランドへ侵攻、フランスに勝ち、昭和15年
9月、日独伊三国同盟が結ばれ、戦争への国民の士気を高めようと成
されていた時代でした。
『夫が(召集令状によって)召集され、晩酌の酒の燗をする事が無くな
った。この春は私と子供たちだけで過ごしています』
当時、高砂町(現、高砂市)在住の松本華子の句です。松本華子は
「ふあうすと川柳社」に所属、「ふあうすと」の三女流と言われた一人で、
第一回ふあうすと賞の受賞者です。
時代が戦争で湧く中、華子の句は『自分の思い母子きり』との意思を
詠っています。川柳は心の句、思いの句を作ることが大事、とされてい
ます。
松本華子の句をもう少しご紹介します。
征く人と城の夕陽をふり返り
軍事便来ぬ月もあり子が育つ
軍事便ふところにして庭を掃く
娘には娘の想いのあらむ初霰
■選者の一句
実感はないまま地動説を生き 正明☆5月のお題は『部屋』 4月末日締切りです。
☆6月のお題は『布団』 5月末日締切りです。
☆なお『自由吟』は随時、募集しています。
今回の特選句『発つべこの鳴きに心が押し潰れ』
『べこ』とは、ご存知と思いますが、牛の事です。
私はテレビなどでしか知りませんが、売られていく牛が、荷台に上
がる事を嫌がって鳴くのです。何時もとは違うという事を察知してい
るのです。飼い主の方にとっても何度経験しても慣れるという事のな
い瞬間なのでしょう。
『心が押し潰れ』るのです。
『押し潰れ』という表現が秀逸だと思います。
悲しい、とか、辛い、とか、切ない、とかではなく、『押し潰れ』とされ
た事に深い痛みが伝わる気がしました。
お仕事、と割り切れない、でも、動物の飼育を生業にされている方
は無類の動物好きと聞きます。
瞼にも耳にも届くような一句だと思いました。