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2014/05/14(水) 第307回4月19日放送

特選句 

     発つべこの鳴きに心が押し潰れ              なごみ

入選句

題『鳴く』
     山寺に昼鳴く虫と別れゆく                  翔空
     眠れぬ夜 犬の遠吠え救急車                有子
     鳥鳴かぬ まだ夜なのか雨なのか             朝子
     鳴くことも出来ぬ托卵 時鳥                 喜明
     毎日が今の世の中雷鳴で                  清香
     ゴミの日は鴉鳴き声場所選び                 栄


題『自由吟』
     我ながら母に似てるとふと思う                佐知
     朝ドラの同じ場面で泣く夫婦                 英樹
     皿割ってわたし悔いなど残さない             かほる
                            


川柳ヒストリー

     燗壜に用なく春を母子きり          松本華子

    昭和15年(1940年)の川柳をご紹介します。
    昭和15年は日中戦争が3年経過して講和への道の見通しは立たず、
   昭和14年9月、ドイツがポーランドへ侵攻、フランスに勝ち、昭和15年
   9月、日独伊三国同盟が結ばれ、戦争への国民の士気を高めようと成
   されていた時代でした。

    『夫が(召集令状によって)召集され、晩酌の酒の燗をする事が無くな
   った。この春は私と子供たちだけで過ごしています』

    当時、高砂町(現、高砂市)在住の松本華子の句です。松本華子は
   「ふあうすと川柳社」に所属、「ふあうすと」の三女流と言われた一人で、
   第一回ふあうすと賞の受賞者です。
    時代が戦争で湧く中、華子の句は『自分の思い母子きり』との意思を
   詠っています。川柳は心の句、思いの句を作ることが大事、とされてい
   ます。

   松本華子の句をもう少しご紹介します。

    征く人と城の夕陽をふり返り
    軍事便来ぬ月もあり子が育つ
    軍事便ふところにして庭を掃く
    娘には娘の想いのあらむ初霰

 
          

選者の一句

    実感はないまま地動説を生き             正明

 

    ☆5月のお題は『部屋』           4月末日締切りです。
    ☆6月のお題は『布団』           5月末日締切りです。

    ☆なお『自由吟』は随時、募集しています。



   今回の特選句『発つべこの鳴きに心が押し潰れ』

    『べこ』とは、ご存知と思いますが、牛の事です。
    私はテレビなどでしか知りませんが、売られていく牛が、荷台に上
   がる事を嫌がって鳴くのです。何時もとは違うという事を察知してい
   るのです。飼い主の方にとっても何度経験しても慣れるという事のな
   い瞬間なのでしょう。

    『心が押し潰れ』るのです。

    『押し潰れ』という表現が秀逸だと思います。

    悲しい、とか、辛い、とか、切ない、とかではなく、『押し潰れ』とされ
   た事に深い痛みが伝わる気がしました。
    お仕事、と割り切れない、でも、動物の飼育を生業にされている方
   は無類の動物好きと聞きます。

    瞼にも耳にも届くような一句だと思いました。